過去約20年間、世界の中で日本の研究は質量ともに衰退の一途をたどっています。直近の各国・地域別の人口あたりの研究論文の数は、日本は世界39位と、経済規模が日本より小さいハンガリーやポーランドなどの旧社会主義国も下回っています。文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、日本は1980年代から1990年代初めにかけ、世界の研究者が注目する上位10%の論文数で米英に続く世界3位が定位置でした。この頃に後のノーベル賞につながる研究が生まれています。しかし、2000年代半以降に順位を大きく下げ、現在では9位に沈んでいます。
日本で、イノベーションを生む土壌が枯れつつあります。状況をさらに悪化させそうなのが、若者の研究者離れです。大学院で博士号を取得する人は、2006年度をピークに減少傾向が続いています。背景にあるのは、研究者を取り巻く不安定な雇用環境です。日本は若手研究者のポストに直結する国立大学の運営費交付金を減らし、活躍の場を奪ってきました。硬直的な体質の残る大学では、人材の新陳代謝も進みにくくなっています。
医学部においても同様なことが起こっています。基礎医学を志す医学生が減少し、臨床、特に様々な専門医を目指す医師が増えてきています。また臨床家を目指す人も実地臨床の経験が少ないまま開業して、日常臨床に従事するようになってきています。臨床を実施する上で、基礎研究の大切さを理解する医師が減少してきているのも残念です。性急に結果を求めず、純粋に科学に親しむ若い時代があったとしても、決して従為となるものではありません。
(2020年2月20日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)