人口問題を考える―Ⅰ

出生率の低下
20世紀の人口爆発から一転し、世界は今世紀半ば以降、人口減少に直面します。人口は経済や社会、軍事などあらゆる分野の土台となってきましたが、この構造は大きく揺らぐことになります。世界各国・地域にとって歴史上の大きな誤算となったのは、出生率の低下です。
1950年代から1970年代前半まで、世界平均の合計特殊出生率は4を上回っていました。多くの国・地域は、人口拡大を当然のものとしてとらえ、国づくりを進めてきました。世界の出生率の分布と変遷を見ると1950年時点では、アフリカや南米諸国などでは6~8、米国や日本でも当時は3を上回っていました。

世界的なベビーブームは1970年代前半まで続き、1972年には人口爆発による資源枯渇や環境汚染を警戒し、成長の限界と題する報告書も発表されました。しかし、このシナリオは大きく崩れました。日本は、高度経済成長を遂げた1970年代に出生率が2を割り込み、少子高齢化社会のトップランナーとなり、他の先進国も日本に続きました。女性の社会進出などを受けて出生率は下がっていき、2000年に入ると率のグラフ上の重心は1~3付近へ移っていきました。

2022年時点では、高所得国・地域の出生率は平均で1.7、世界全体では2.3まで下がりました。いまの人口規模を維持するために必要な出生率である人口置換水準は、概ね2.07程度とされます。現在、先進国を中心に約90カ国・地域、全世界で見ると、およそ半数でこの水準を下回っています。

2030年代には、現在の発展途上国でも急速に少子化が進みます。2036年の時点で、世界全体でみた時の出生率は置換水準の2.07を下回ります。2050年時点では、ほぼ全ての国・地域で置換水準に届かなくなります。2050年時点での予測で世界全体の平均出生率は1.87となります。さらに50年後の2100年には、世界の出生率は1.66まで下がると予測されています。日本やタイ、スペインなど23カ国で、人口が現在の水準から半分以下になると推計されています。

(2022年7月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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