人材の流動化は、経済のダイナミズムを支えるようになってきています。世界においては、リーマン・ショックなどの経済危機で加速化する人材移動がイノベーションを生んでいます。米国では、新型コロナウイルス禍を経て現在の働き方に矛盾を感じ、転職を考える人が増えています。コロナ禍が促す人材の流動化は、生産性向上やイノベーションの創出を後押ししています。
しかし、日本にはそういったエネルギーが乏しく、終身雇用を前提にした雇用体系は技術の進化などに対応できない人材の社内失業を増やし、企業収益を停滞させています。デジタルスキルを持つ人材へのニーズは高まっていますが、日本企業の人事制度では報酬の引き上げに限度があります。それが全体的な賃金の伸び悩みを招き、成長分野への人材シフトもなかなか進みません。
日本は、海外と比べ平均勤続年数が長く、一人あたりや時間あたりの労働生産性が低くなっています。デンマークの1人あたり労働生産性は10.2万ドルと、米国の12.6万ドルを下回る一方、時間あたりでは74.7ドルと米国の72.1ドルを上回っています。今や日本よりも1人あたりの年間労働時間の多い米国に対し、生活と仕事を両立させるのがデンマーク流です。
人材の流動性が高ければ経済全体でみた適材適所の人材の再配置につなげやすくなります。働き手一人ひとりがスキルを磨き力を十分に発揮できる環境を整えると同時に、再挑戦をしやすくする仕組みを考えなければなりません。
(2022年1月4日 日本経済新聞)(吉村 やすのり)