人権デューデリジェンス(DD)とは、企業が自社のサプライチェーンの人権侵害リスクを調査し、対策を講じることです。人権方針の策定、強制労働を行う取引先の排除、職場のハラスメント防止など多岐にわたります。日本では、技能実習生など外国人労働者の処遇改善への関心も高く、人権侵害の被害者を救済する苦情処理メカニズムも注目されています。
国連が2011年に策定したビジネスと人権に関する指導原則で、世界の企業に人権DDの実施を促して以降、欧州などで法制整備が加速しています。英国やフランス、ドイツなどで、企業に人権DDを義務付ける法律が施行されました。日本でも、政府が2022年に企業に人権DDの実施を求める指針をつくりましたが、法的拘束力はありません。
大企業の間では、自発的に人権DDを実施する動きが広がっています。花王はパーム油を調達する海外農園などの人権状況を調査しており、ANAホールディングスは取引先で働く外国人の労働環境の把握を進めています。第一生命ホールディングスは人権リポートを公表し、社内の人権啓発研修の取り組みなどを発信しています。しかし、中小企業はいまだ十分とは言えない状況にあります。

(2025年3月22日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)