今、少子化対策に何が必要か

2030年までがラストチャンスと、政府は昨年新たな少子化対策であるこども未来戦略を閣議決定しました。加速化プランに年間3.6兆円を投入し、2024年度からの最初の3年で、対策メニューのほとんどをそろえるとしています。プランが始まる2024年は、合計特殊出生率が人口置換水準を下回り始めた1974年から、50年が経過しています。政府の最初の少子化対策であるエンゼルプランができてから、30年の年でもあります。
半世紀も続く少子化の流れを6、7年で変え、30年分の対策不足を3年で取り戻すのは容易ではありません。対策を実効性のあるものにするには、まずは財源の確保です。プランは給付先行で始まります。3.6兆円は、2028年度までに歳出改革と規定予算の活用、新たに医療保険ルートで集める支援金とで確保するとしています。歳出改革は、比較的ゆとりのある高齢者に医療や介護の負担を求めることになります。若い世代に社会保障のさらなる負担など先行きの不安が広がっては、せっかくの効果も期待できません。
少子化の背後にある構造問題に踏み込むことも大切です。プランには、児童手当の拡充や多子世帯への大学教育の無償化などの経済的支援と、子育てサービスの拡充が盛り込まれています。女性ばかりが育児を担うワンオペ育児を無くすために、男女がともに育休を取った場合の給付金を実質10割にすることや、短時間勤務への給付金を創設しています。しかし、男性育休の期間が短ければ形だけになりかねず、短時間勤務の利用も現状は女性に大きく偏っています。
男性の育児が進まない背景には、長時間労働を前提にした日本の雇用慣行や男性は仕事、女性は家庭という根強い社会規範があります。多くの女性がこの壁に直面し、キャリアを諦めたり、離職や非正規に転じたりしてきました。新たな制度ができても、慣行や規範が変わらなければ、男女がともに育児を担うハードルは高いままです。
今回の新たな少子化対策は、10年前に実施されていれば一定の効果がみられたかもしれません。経済的な支援や制度の創設だけで、若い世代が子どもを持ちたいと思える時代は過ぎてしまっています。変わらない社会のあり方自体が、少子化の要因になっていることを認識すべきです。必要なのは、子育て世帯への支援だけでなく、社会の意識も変えることです。選択的夫婦別姓や女性活躍が認められない国で、若い世代は子どもを育てたいと思うでしょうか。長時間労働の割合や労働生産性の高さ、男性の家事育児時間、男女均等度など解決すべき課題はありますが、今必要なことは社会の意識のイノベーションです。

(吉村 やすのり)

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