2021年に英グラスゴーで行われたCOP26では、各国が産業革命前からの気温上昇を1.5度に抑える事実上の世界目標で合意しました。温室効果ガスを大量に出す石炭火力発電の段階的な削減や、非効率な化石燃料への補助金の廃止を初めて明記しました。
目標を達成するには、2030年に温室効果ガス排出を半減させる必要があります。しかし、その後のウクライナ危機で情勢は一変しました。石炭など化石燃料を一時的に活用する動きが広がっています。この夏もパキスタンで大洪水、欧州や中国に記録的な熱波が襲うなど異常気象や災害が頻発しています。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によれば、気温上昇が1.5度を超えるほど、こうした豪雨や干ばつが起こりやすくなるとされています。
地球の平均気温は、産業革命前から既に1.1度上昇しています。先進国は、二酸化炭素の排出対策をほとんどしないまま経済発展をしてきており、これまでの温暖化に大きな責任を負っています。そのため、途上国は、気候変動の影響を軽減する適応分野や、それでも生じてしまう損失と被害の救済策について、先進国側に支援の強化を求めています。
既に先進国は、2020年までに資金を年1千億ドル支援すると約束しています。しかし、200億ドル分足りず、途上国側の不信感につながっています。最も貧しく、最も脆弱な立場に置かれた人々、危機の原因を最も作っていない人々が、最も残酷な影響を受けています。途上国に技術支援などを行う枠組みを機能させることや、新たな基金設立を求める声も出ています。
近年は、経済発展する新興国の温室効果ガス排出量が増えています。1990年は先進国の排出量が全体の約4割を占めていました。2019年には3割に低下しています。中国の排出量は約4倍、インドは約3倍に増えています。先進国は、排出量が増え続ける新興国にいかに削減を急がせるかを重視しています。1.5度目標には、2025年までには排出量を減少に転じさせる必要があります。温室効果ガスの削減量取引を各国間で行う新たな国際枠組みが急務です。
(2022年11月1日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)