介護業の労働生産性の低迷

 介護業は、長年利益が上がりにくい産業と言われています。2021年の経済センサスによれば、労働生産性を示す従事者1人あたりの純付加価値額は、老人福祉・介護事業で313万円です。製造業の602万円や全産業平均の599万円の半分ほどにとどまっています。2016~2021年の間に介護業の従事者は13.2%増えました。他の産業よりも急ピッチで増えていますが、雇用吸収力がある産業の生産性が上がっていません。

 政府も生産性向上の支援はしています。10年ほど前からロボット導入に補助金を投じています。2024年度の介護報酬改定では、ICTやロボットを導入する事業者に報酬を上積みする制度も設けています。しかし投資に踏み切れるかは業態や地域で差が出ます。利用者が集まる都市部の施設系は歩行支援ロボットなど新技術を導入しやすいのですが、利用者宅での個別のケアとなる訪問型や地方の小規模事業者は新技術の稼働率を上げにくく、投資余力も限られてしまいます。

 介護事業の生産性を向上することは、事業者の経営体力を高めて介護網を守るためにも、スタッフの賃上げのためにも重要な課題です。公定価格で介護報酬が固定されている点があるとはいえ、生産性が上がらなければ賃上げ余力は限られてしまいます。都市部の施設でも必要な働き手を確保できず、事業の撤退や縮小につながる可能性があります。

(2025年12月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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