代理出産報道に思う

 中国人クライエントが、東京都新宿区歌舞伎町を拠点とする闇の代理出産ビジネスを利用して、子どもをもうけたと毎日新聞で報道されました。クライエントは、中国共産党中央で要職に就く幹部の親族です。クライエントの夫は貿易会社役員で、おじは共産党中央と政府の要職を兼務する人物です。そのおじから代理懐胎を依頼されたそうです。
 今回の代理出産で生まれた子どもの遺伝子上の親はクライエントの中国人夫妻ですが、日本の戸籍上の母親には代理母を務めた在日中国人、父親には第三者の日本人があてがわれています。父親が日本人なので、子どもは日本国籍を取得することができます。日本人の家族がいれば、資産を安全に日本国内に移転することが可能になります。さらに、日本での不動産の売買や会社設立も容易になり、米国など第三国にも拠点が築きやすくなります。東京都内で代理出産をあっせんする中国人仲介業者は、4年前に代理出産ビジネスを始めたとされており、これまでに生まれた子どもは計86人にも達するとされています。日本の託児所などで預けられている子どもは28人にも及びます。中国に引き取られた子どもが58人いるとされています。
 闇の代理出産ビジネスは、中国共産党幹部やその親族の口コミで広がっています。日本には代理出産を禁じる法律がなく、日本人夫婦が代理懐胎を依頼されれば、生まれた子どもは日本国籍を得られるため、遺伝上の両親との関係が公的書類からたどることはできません。一方、中国の捜査当局の追跡を恐れる一部の党幹部や富裕層にとっては、ある種の亡命システムとして子どもを安全な資産逃避先にすることが可能です。代理出産を巡る関連法規の無い日本が逃避地として利用されている形になっています。これまで代理懐胎には、生まれた子どもを引き取らない、代理懐胎女性に中絶を要求する、懐胎女性が死亡するなど、様々な問題が生じています。この報道は、代理懐胎の新たな問題を提示しています。わが国においても代理懐胎を認めるかどうかについての法規制を含めた議論を始めなければなりません。

(2016年6月18日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。