休暇を考える―Ⅱ

休暇の取り方の欧州との差異

 欧州諸国と比較し、日本人の休暇との取り方には大きな差異がみられます。年間休日数は最大5日程度の差しかありません。しかし、わが国は週休日以外の休日が突出して多い一方、年次有給休暇(年休)は顕著に少なくなっています。わが国では国民の祝日が多いうえ、年末年始やゴールデンウイーク、お盆などにいっせいに休みます。逆に、それ以外にまとまった休暇を取る人は少数です。年休の取得率も、米国の92%、ドイツの93%、フランスの94%などに比べ、わが国は63%と著しく低率です。

 労働基準法改正により、使用者が時季を指定して年5日の年休取得を義務づけるようになりましたが、それでも年休の使い残しが多くなっています。労働政策研究・研修機構の年次有給休暇の取得に関する調査によれば、病気や急な用事のために残しておく必要があるからが64.6%を占めています。わが国では病気休暇の制度が普及していないことが背景にあります。欧州諸国のような夏季のバカンスを取る習慣がないことも、取得率の差につながっていると考えられます。2番目に多かったのは、休むと職場の他の人に迷惑になるからが60.2%で、職場の周囲の人が取らないので年休が取りにくいからが42.2%、上司がいい顔をしないからが33.3%と続きます。

 この結果は、日本特有の共同体型システム、とくに集団主義的な職場環境や働き方、マネジメントの特徴が日本人の休み方に制約を与えていることを示唆しています。日本企業特有の共同体型システムのもとでは、欧米のように一人ひとりが自分の都合に合わせてまとまった休暇を取ることが容易ではないのです。

 休暇取得の面からも注目されるのが、欧米式のジョブ型の働き方です。ジョブ型では一人ひとり仕事の分担が明確で、休暇を取っても職場全体の仕事が回らなかったり、周囲に迷惑をかけたりすることもありません。また個人のアウトプットを捕捉しやすいので、人事評価も態度や意欲より成果重視になります。そのため自分の役割を果たし、成果をあげていれば評価を気にせず休暇を取得できます。

 クリエーティブな仕事、スタートアップや比較的規模の小さい中小企業では、雇用労働者でも半ば自営業のように、個人がある程度まとまった仕事をこなしているケースが多くなっています。このような自営型の働き方が広がっている背景には、インターネットやAIなどデジタル技術の進化があります。一般に自営型の働き方は仕事の裁量度が大きく、仕事と私生活の調整もしやすく、休暇が取りやすくなります。リゾート地でレジャーを楽しみながら仕事をするワーケーションや、本格的なリモートワークを実践する社員は、実質的に自営型の働き方をしています。

(2025年5月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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