待機児童対策が急務だった保育の現場は、いま少子化の加速で存続か消滅かの岐路に立たされています。厚生労働省の調査研究によれば、全国の保育園やこども園などで、子どもの減少によって施設の運営維持が難しくなるかどうかを聞いたところ、現在影響があると回答したのは12.2%、今後生じる可能性があるは55.7%に上っています。
少子化が子育て環境を一変させています。足りなかったはずの保育施設は定員を満たせず、存続が危ぶまれる自治体も出始めています。国立社会保障・人口問題研究所が2018年に公表した地域別の人口推計によれば、2040年に0~4歳の子どもが2020年と比べて20%以上減るのは、全国の35道府県に広がります。首都圏の埼玉、千葉、神奈川各県でさえ15%前後の減少が見込まれ、1桁台の減少でおさまるのは東京都(7%減)のみです。
厚生労働省の推計によれば、保育ニーズを押し上げる女性の就業率の上昇を織り込んでも、保育園を利用する児童数は、2025年がピークでその後は横ばいです。待機児童解消に向け、施設整備に追われてきた保育政策は急激な転換を求められています。
子どもが生まれなくなれば、地域から消えるのは保育施設、産科や小児科など医療機関にとどまりません。働く場も失われてしまいます。働き手の減少にも直結します。高齢者人口がピークとなる2042年に向け、介護や医療の現場で人手不足がさらに深刻化し、サービスが滞る可能性があります。公的年金も保険料を払う支え手の減少で財政が悪化し、将来の年金水準を押し下げることになります。若い世代の生活には、医療、保育、教育のどれもが必要です。それがなくなれば、住める地域を求めて移動することになります。
(2022年6月4日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)