風疹はウイルス感染から2~3週間で発症し、発熱、全身の発疹、首や耳の後ろなどのリンパ節の腫れが典型的な3大症状です。しかし、15~30%程度は症状がはっきり出ず、風邪と間違われたり、感染に気づかなかったりすることもあります。風疹で最も心配されるのは、妊婦への感染です。妊娠初期にかかると、難聴や白内障、心臓病などが起きる先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれる可能性があります。2012~2013年の流行時には45人の報告があり、このうち11人が亡くなるという深刻な結果となりました。
先天性風疹症候群が起こらないようにするには、ワクチン接種をして、感染を予防するしかありません。妊娠中はワクチンを接種できません。1990年4月2日以降に生まれた人は、幼児期などに2回接種を受けている人が多く、免疫を持っている人が多くなっています。しかし、妊婦健診で風疹に対する免疫が不十分と分かった場合、特に注意が必要です。パートナーや同居する家族にワクチン接種を求めるべきです。流行を抑えるには、社会全体で95%以上の人が、免疫を持つ必要があるとされています。昔の接種制度の影響で、30~50歳代の男性で免疫があるのは8割に過ぎません。妊婦がウイルスに触れる機会を極力減らさないと、先天性風疹症候群は防げません。
今回も前回流行時も、患者の大半は30~50歳代の男性でした。現在は子どもの男女に定期接種が行われていますが、かつては女性だけが対象で、1979年4月1日以前に生まれた男性は、接種機会がありませんでした。免疫を持たない成人男性への対策は以前からの課題です。米国の疾病対策センターは前回流行中の2013年6月に、風疹予防ができていない妊婦は日本に渡航するのは避けるべきだとの警報を出しています。東京五輪が開かれる2020年までに国内流行を無くすことが大切です。予防にはワクチン接種しかありません。東京五輪の時期に流行していれば、先進国として恥ずべき状況です。
(2018年9月5日 読売新聞)
(吉村 やすのり)