先発薬の権利拡大

 先発薬メーカーが、後発薬メーカーに対し、薬の有効成分の用途に関し損害賠償を求めた訴訟で、先発薬メーカーが持つ特許の保護範囲を広く認める司法判断が下されました。先発薬メーカーにとって延長した特許が保護される意義は大きいと思われます。医薬品の特許権は原則として出願から20年間ですが、臨床試験といった開発期間が必要で、実際に新薬が市場に投入されるまで一般的に10年から15年程度かかります。実質的な特許権の独占期間は5~10年程度ですが、最長5年延長できます。製薬企業はこの期間で開発に投じた費用を回収しつつ、次の新薬の研究開発に振り向けなければなりません。

 医薬品の特許は、①有効成分である新規化合物に関する物質特許、②化合物を特定範囲に使う用途特許、③特定の医薬品をつくるための製剤特許の3種類があります。延長後の特許により保護される範囲については、法令上明確に示されていません。このため実務面では各事例の司法判断が一つの基準になります。

 医薬品の特許制度は、多大な研究開発費と時間を要する新薬開発を製薬企業に促すために不可欠です。しかし、高額賠償金のリスクが高まれば、後発薬メーカーが商品開発に消極的になることも予想されます。後発薬業界は複数のメーカーが同じ成分の薬を作るなどして過当競争になり、収益が薄くなりやすい構造問題を抱えています。低価格の後発薬の市場投入が遅れれば、医薬品の価格は高止まりします。各国の医療財政を圧迫するだけでなく、患者負担を押し上げる要因にもなりかねません。

(2025年5月28日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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