児童手当の所得制限は必要か

児童手当の財源は、社会全体の税金などで賄われています。高所得者ほど税率が高いため、高所得者から低所得者への所得の再分配にもなっています。所得制限は、必要な人を効率的に支援するためにあるとは必ずしもいえません。誰が対象外かを選別するための手間や費用がかかるうえに、現在の生活状況ではなく、前年や前々年の所得で線引きされるというタイムタグもあります。先進諸国の中で、単純な所得制限によって、一定以上の所得がある世帯を完全に不支給にする国はありません。
再分配のパラドックスという現象も考慮すべきです。不支給に不満を持つ人たちが、中間層やさらにその下の所得を削減する政策を支持するようになります。最初は高所得者の除外だったはずが、結果的に手当が削られてしまうことになってしまいます。また所得制限が設けられると、所得限度額が行政によって一方的に決定されたり、引き下げられたりします。
所得制限の年収要件が、夫婦の収入の合計ではないことに対して、共稼ぎが有利だという批判があります。一方、夫婦の合計にすれば、共稼ぎ世帯の受給率は大きく下がり、母親が就労を抑制することにつながります。母親の就労や収入増が、手当の失格というペナルティーにつながる時代錯誤のジェンダーバイアスを強化するだけとなってしまいます。
児童手当の給付額は、2018年度から2020年度の3カ年だけでも、760億円減っています。政府は、防衛費増額の財源に、使い残した予算や各種特別会計の積立金を回すと言い始めています。社会保障にだけ、安定財源の確保を求めるのは不要ではないと思います。

(2023年1月24日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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