全ゲノム解析による遺伝子変異の発見

保険診療として実用化されているがん遺伝子パネル検査は、がんに関わる100~300程度の遺伝子を調べます。これに対し、全ゲノム解析は、約2万個ある全ての遺伝子を含むゲノム全体が対象です。大量のゲノム情報を蓄積・分析することで、病気の原因解明や新薬開発につなげようと、国際的に研究が進んでいます。
国内では、2019年に厚生労働省が全ゲノム解析の実行計画を策定し、がん研有明病院や国立がん研究センター、静岡がんセンターなどが研究を本格化させています。2月までに解析した約1,200例の分析では、パネル検査で分からなかった遺伝子の変異などが約200例見つかっています。既存の薬の効果が期待できたり、希少がんの診断に役立つたりする新たな遺伝子の変異なども分かっています。
今は直接治療に役立たない場合も、研究が進めば将来の予防や治療の開発につながり得ます。日本人に特徴的な病気のメカニズムを発見できる可能性もあります。しかし課題もあります。全ゲノム解析でがん以外の病気に関わる遺伝子の変異などが見つかることもあります。変異があっても必ず発症するわけではありません。がん治療で大変な中、本人の希望にも配慮し、他の病気のリスクも伝えるべきかは、個々の状況ごとに判断する必要があります。
確立された治療法や予防法がある病気に限り、海外の状況も参考に患者に解析の結果を伝えるルール作りを進めています。遺伝子の変化は誰もが持っていて、ゲノム医療の広がりでそれを知る機会も増えています。良い悪いではなく、健康管理に活用するといった意識改革も必要になってきています。

(2023年7月20日 読売新聞)
(吉村 やすのり)

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