全ゲノム解析による難病診断

難病や希少疾患と呼ばれる患者数の少ない病気は、およそ1万種類あると言われています。海外では人口の6%程度を占めるとの報告もあります。遺伝性の病気であることが多く、幼児期に発症することも多くなっています。遺伝情報は親から受け継ぐDNAに組み込まれており、塩基配列のわずかな個人差が発症につながります。
従来の遺伝子検査は、病気との関連が分かっている代表的な部分に絞ってDNAを調べていました。そのため特に希少な疾患だと原因遺伝子を特定できないことがしばしばでした。国内の研究では、さらに広範囲にDNAを調べても6割ほどが診断できませんでした。約30億にのぼる塩基配列を全て読み取る全ゲノム解析なら、診断につながる可能性があります。
厚生労働省は、2019年に全ゲノム解析の活用を進める計画を策定しました。難病医療への応用を視野に、2022年に国内で初めてとなる実証事業に乗り出しています。国立国際医療研究センター、国立成育医療研究センター、国立精神・神経医療研究センター、聖マリアンナ医科大学病院と慶應義塾大学病院の5機関が事業の中核を担っており、解析は検査会社に外注します。
誰もが受けられる日常医療に全ゲノム解析を取り入れるには、いくつかの課題があります。まず大学や医療機関、民間の検査会社などが連携し、安価で精度の高い検査体制をつくらなくてはなりません。また、遺伝子という重要な個人情報を守るための仕組みと同時に、患者の正しい理解も必要です。患者に対し、検査の意義や限界を正しく説明する遺伝カウンセリング体制を整える必要があります。

(2022年3月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。