安倍政権は、今後3年間で社会保障を全世代型に転換すると表明しています。10月予定の消費増税の一部を財源として、2兆円程度を子育て・教育・介護に回します。これまで日本では、社会保障給付の7割が高齢者向けで占められており、現役世代への支援は手薄でした。2015年の家族関係支出は、GDP比で1.31%とフランスの半分以下、英国の3分の1にすぎません。小学校から大学までの公的教育支出もGDP比で2.9%であり、OECD平均の4.2%に遠く及びません。子育てや教育で私的負担が重いため、子ども達の格差が拡大し、少子化を促進する一因となっています。今回の現役世代への支援の充実により、GDP比で0.4%上昇することになります。
団塊ジュニア世代が65歳以上になる2040年に、日本の高齢化率は35%に達します。現役世代1.5人が高齢世代1人を支えることになってしまいます。この時期の社会保障給付費は、GDP比で24%程度と見込まれています。つまり、日本は世界で最も高齢者の多い国になっています。しかし、日本は高齢化率が際立って高いのですが、高齢者向け支出が大きいとは言えません。日本の社会保障は高齢者向けに偏っていますが、社会保障全体の規模が小さいことに依っています。高齢者は、2004年に導入されたマクロ経済スライドにより、現在の高齢世代は将来世代に比べて手厚い年金を受け取っています。65歳以上でも働き続けられる仕組みの整備、医療・介護の効率化、豊かな高齢層への負担拡大も必要となってきます。
日本では、社会保障費の約4割が税で賄われています。しかし、税収が足りないため、毎年30兆~40兆円の赤字国債を発行しています。消費増税による増収分のうち2兆円を、赤字国債の縮小ではなく、子育て・教育支援に充てることにしています。つまり、赤字国債を財源としており、将来世代に負担を付け替えていることになります。現役世代への支援が、将来世代の負担により行われることになっています。
消費税率10%という数字は、欧州主要国の半分、欧州連合(EU)で定められた最低基準である15%の3分の2にすぎません。国民の間の痛税感は強いものがありますが、諸外国に比べて、わが国の税負担の少なさを理解することも必要です。払った税が自分たちに返ってくるという感覚を醸成することも大切です。現役・退職世代がともに負担し、安定した財源となるはずの消費税をさらに引き下げ、安定した財源の下で中福祉・中負担の社会を実現することが必要となります。
(2019年4月4日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)