公的な社会・教育支出

 人的投資は先進諸国共通の課題です。しかし、課題への対応は国家により異なっています。北欧諸国は政府部門で雇用を吸収し、家族対策や職業訓練などの積極的労働政策を推進しています。英国は貧困削減のため勤労を条件に税額控除(税による給付)を付与し、福祉依存から雇用促進へと転じています。しかし社会保険を基盤とするドイツや日本、南欧などのビスマルク型国家は、対応が遅れています。年金と失業保険を合わせた補償的支出と家族対策・積極的労働政策・教育を合わせた社会的投資支出を見ると、独日などでは、社会保障は国内総生産(GDP)の平均約10%を上回り、社会的投資支出は平均約7%を下回っています。
 ビスマルク型国家では社会保険料の引き上げは容易でしたが、増税が難しく、家族が育児を担う伝統もあり、社会的投資を充実できなかったといえます。男性の片働きや正規雇用などを前提とした社会保険は、すでに制度疲労を起こしており、特に日本は非正規の急増、男女間の差別などで問題は深刻です。日本は高齢化が進んでいるとはいえ、年金や医療支出はスウェーデンを上回っています。このような事実を国民も認識し、皆で痛みを分かち合わなければなりません。

(2017年12月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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