共同意思決定の重要性

科学的知見を重視する近年の医療であるEvidence-Based Medicine(EBM)では、患者さん中心の視点を欠かすことができません。こうした医療を実現するために近年注目されているのが、治療方針決定に際して患者と医療者が共に参加する共同意思決定(Shared Decision Making:SDM)です。複雑化しているがんの治療方針の決定には、EBMに基づいた共同意思決定が必要不可欠になっています。
肺がんでは、患者一人ひとりの病気のタイプを調べ、より効果が高いと見込まれる薬を使う個別化医療が進んでいます。治療前に複数の遺伝子変異を調べる検査をすることが標準的になっています。一方で、検査や薬の種類は年々増え、複雑化しています。
肺がんの治療選択時の説明について、医師と患者の意識調査によれば、両者の間に意識のギャップがみられます。治療選択肢が5つある場合、いくつ説明してほしいかを患者に問うと、81%が5と回答しています。一方、医師にいくつ説明するかを尋ねると、5と答えたのは26%で、65%は2~4でした。どの程度の確率で変異が見つかるならば検査を受けたいかという質問に、1%でもと答えたのは、患者は81%と大半が望んでいますが、医師では40%にとどまっています。
患者は医師にもっと説明してほしい、自分も関わりたいと思う人が多くなっています。一方、医師は患者に配慮して情報量を調整している可能性があります。治療方針を決定するには、患者と医師による共同意思決定の推進が必要となります。しかし、医師だけで十分に情報提供するのは難しく、チーム医療や病院全体の体制改善が求められます。納得して医療を受けるには、患者側も受け身ではなく、治療内容を理解する努力が必要です。

(2024年2月15日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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