熊本市は、慈恵病院が独自に取り組む内密出産について病院と協力して母子支援の対応をする方針を固めています。やむなく内密出産を選ぶ母親がいる現実を受けて、病院と市は、近く情報共有や話し合いの場を設け、内密出産で生まれた赤ちゃんの養育などの課題について検討を進めることは、評価できる対応と思われます。
昨年12月に内密出産を希望する西日本の10代女性が出産し、病院側にのみ身元を明かし、匿名で出生届を出すことを前提に、赤ちゃんの特別養子縁組を望む書面を作成して退院しました。市は、これまで内密出産は法に触れる可能性があるなどとして、病院側に控えるよう求めてきました。しかし、子どもの権利擁護などの観点から従来の方針を転換しました。今後、市は内密出産について必要な法整備を国や国会議員に働きかけていく方針です。
内密出産には、安易な育児放棄を助長するという批判があると思われます。しかし、赤ちゃんには何の罪も責任もありません。どのような状況にあっても、子が健やかに生まれ育つ環境を整えることは、社会全体の責務です。安心して出産できる場を用意し、病院と市との母と子の命を守ろうという取り組みは尊重されてしかるべきです。そのうえで、浮上した課題の解決に向けて、社会全体で議論を深めることが大切です。
内密出産には法的な課題がありますが、母子の命に関わる孤立出産を防ぎ安全に出産できる側面を認めることも大切です。孤立出産は、母子いずれにとっても危険な行為であり、遺棄や殺害にもつながりかねません。内密出産で、戸籍は無事につくられ、赤ちゃんは法的な保護の下に置かれるのか、母親の身元に関する情報を将来にわたって安全・確実に管理できるのか、子の出自を知る権利は本当に守られるのかなど課題が残されたままです。さまざまな論点があり、簡単に結論が出るとは思えませんが、まずは子どもの法的地位の確立が急務です。
(吉村 やすのり)