熊本市の慈恵病院は、昨年12月に、女性が病院にだけ身元を明かして出産し、子が後に希望すれば母親の情報を開示する内密出産を受け入れることを決めました。2014年から実施しているドイツでは、母親は相談機関に身元を明かす証書を封印して預け、医療機関では仮名で出産します。子は原則16歳になったら出自を知ることができます。出産前後の費用は国が負担します。慈恵病院では、新生児相談室室長が母親の情報を保管します。母親の名前を記さず出生届を出し、戸籍にも出産の事実が記載されない仕組みになっています。子が一定年齢に達し希望した場合は、母親の情報を開示します。
厚生労働省によれば、2003年7月~2018年3月に心中以外の虐待で亡くなった子ども779人のうち、生後0日は149人にも達します。いずれも孤立出産によるもので、予期せぬ妊娠の結果による虐待死が多いとされています。妊娠を知られたくないと孤立出産を選んできた女性が、病院で安全に産むことができるようになります。内密出産という方法自体は素晴しいと思われますが、戸籍や個人情報の管理といった問題を民間に任せておいて良いとは思われません。妊娠に困っている人のニーズに合う相談体制も含め、予期せぬ妊娠対策の統一した仕組み作りが必要となります。妊娠した女性たちが、誰にも相談できず追い詰められてしまう背景を理解し、女性たちを孤立出産させてしまう社会を変えるようにすることが大切です。
(2020年4月6日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)