内密出産制度とは、ドイツで2013年に法律が制定され、2014年から実施されている妊婦支援制度です。母親は相談機関に実名で相談し身元を明かす証書を封印して預け、医療機関では匿名で出産します。子は原則16歳になったら出自を知ることができ、出産前後の費用は国が負担します。このように内密出産は、妊娠を誰にも知られたくない女性を医療機関が匿名で受け入れることにより、母子の安全を図り、子どもが一定の年齢になれば母親の身元を知らせる仕組みです。
熊本の慈恵病院は、命を救う最後の手段として2007年に赤ちゃんポストを設置しています。約10年間で130人の子どもが預けられましたが、医療機関にかかわらず一人で出産する例がほとんどです。また赤ちゃんポストには、出自を知る権利を奪うとの批判もあります。妊娠を知られたくなくて誰にも相談できず、孤立している妊婦は少なからずいます。匿名性を揚げて受診のハードルを下げ、危険な自宅出産をする人を減らすことが目的です。
しかし、産まれた子の戸籍はどうするのかや、母親の身元の匿名性を長期間どう守るかなどの課題があります。実現するには行政機関の理解や協力が欠かせません。どうしても人に知られたくないための完全な匿名出産制度も併せ、全国の困っている女性や赤ちゃんに対応するためには、国の制度の後押しが必要になります。こうした制度は無責任な出産を増やすという批判もありますが、赤ちゃんポストに加えて内密出産制度ができれば、女性たちの状況に応じた選択肢が増えることにもなります。
(2017年12月16日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)