再び異次元の少子化対策を考える―Ⅱ

 政府は2023年末に若者世代の所得底上げや子育て世帯の支援策を盛ったこども未来戦略をまとめました。2030年までが少子化を反転させるラストチャンスと位置づけ、2028年度までに国と地方あわせて3.6兆円規模の施策を実施するとしました。児童手当の所得制限を撤廃した上で対象を高校生まで広げたり、第3子以降の支給額は月3万円に倍増しました。親が働いていなくても保育を利用できるこども誰でも通園制度もつくりました。

 2025年度からは、経済的な支援を拡充しています。出産後に両親がともに14日以上の育休を取得した場合、休業期間中の給付金に休業前賃金の13%を上乗せします。最大28日間は休業前の手取り収入と実質同額を得られるようになりました。時短勤務で減る収入を補填する育児時短就業給付も新設し、2歳未満の子どもがいる場合に賃金の1割を支給しています。

 財源は歳出改革で1.1兆円、2026年度から医療保険料に上乗せして徴収する支援金で1兆円を確保します。残り1.5兆円は既定経費の活用で賄います。歳出改革で社会保険料も抑える算段で、賃上げと併せて実質的な負担増なしで実現するとしています。

 2024年の出生数と出生率が過去最低に落ち込みました。政府は児童手当の拡充など異次元の少子化対策に取り組んでいますが、2年目を迎えても目に見える効果につながっていません。対策が始動して2年目で効果の有無を断じるのは時期尚早とも言えます。しかし、児童手当の拡充、多子世帯に対する大学教育の無償化、男性の育休取得の推進などの少子化対策の加速化プランが、出生数の増加につながっていません。  

 今国として求められることは、子育てに対する経済的な支援ではなく、若い世代が子どもを持ちたいと思えるような社会、ウェルビーイングの実現です。そのためには、社会観・人生観・結婚観・家族観などにおいて、多様性を認めることが必要となります。国民一人ひとりの意識の改革なくして、この未曾有の少子化を乗り切ることはできません。

(2025年6月10日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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