失われた組織を再生する医療や、遺伝子治療、次世代がん治療のCAR-T細胞療法などに使う医薬品は、再生医療等製品と呼ばれ、次世代の医薬品として成長が見込まれています。細胞が成分のものは、投与後に細胞が患部に定着したり、患部を治療する分泌物を出したりします。遺伝子が患者の体内に入って治療効果を持つたんぱく質を作り出すものもあります。再生医療等製品の代表例となるがん免疫療法であるCAR-Tでは、患者の細胞を採取し、その細胞に治療に役立つ遺伝子を入れて体内に戻します。化学合成でつくる従来型の低分子医薬品とは異なる仕組みで作用します。がん治療のほか、失われた細胞組織の再生などへの活用が期待されています。富士経済の調査によれば、再生医療等製品の国内市場はCAR-Tを中心に伸びるとされています。
化学合成でつくる従来型の薬に比べ製造工程が複雑なため、薬の研究開発をする創薬企業と、製造を担う開発・製造受託と呼ばれる企業との分業が進んでいます。細胞を培養するなどして生産するため、従来型の医薬品に比べて品質にばらつきが出やすく、製品の有効性を調べるのに時間がかかります。政府は安全性を確認でき、治療効果を推定できる段階で暫定的に承認する条件及び期限付き承認制度で実用化を後押ししています。
実用化では米欧が先行しています。国立医薬品食品衛生研究所によれば、遺伝子やCAR-T分野で米国で承認された薬は25製品、欧州は22製品ありますが、日本は10製品にとどまっています。がんや難病への治療効果が期待される先端薬の生産で日本勢は米欧に後れをとっています。患者が先端治療を受けにくくなる恐れや、競争力の低下を招く可能性があり、政府も設備投資を支援し、官民で生産基盤の整備を急いでいます。

(2025年7月29日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)