政府は、東京電力福島第1原子力発電所の敷地内にたまり続ける処理水を海に放出する方針を決めました。東京電力ホールディングスは、原子力規制委員会の認可を受けて、2年後をめどに放出を始めます。風評被害が起きた場合は、東電が被害の実態に見合った賠償をすることになっています。
処理水の海洋放出とは、発生した汚染水を浄化した処理水を、さらに薄めて海に放出する処分方法です。汚染水は原子炉内に残された溶融燃料(デブリ)を冷やし続けるための水などが、高濃度の放射性物質に汚染されて大量に発生しています。東電は専用装置を使い汚染水からセシウムなどの放射性物質を取り除いた処理水を原発の敷地内のタンクにためています。2022年秋ごろにはタンクが満杯になるとされています。
処理水には、専用装置でも取り除けない放射性物質のトリチウムが含まれています。放出前に海水で100倍以上に薄めて、国の基準値の40分の1程度、WHOが定める飲料水の水質ガイドラインの7分の1程度にトリチウムの濃度を下げます。放出後、政府と東電は、漁場や海水浴場などで海水中のトリチウムのモニタリングを強化し、環境への影響を監視することにしています。
処理方法を巡っては、経済産業省の有識者会議が、2013年から深い地層へ注入する案や、大気への放出案など5つの方法を技術的に検討してきました。2016年に海洋放出が最も安く、短期間で処分できるとの報告書をまとめています。政府は、2020年秋に海洋放出の方針を決めようと試みましたが、風評被害を懸念する全国漁業協同組合連合会などから理解を得られず先送りしていました。処理水の海洋放出は、廃炉作業期間の30年程度続きます。風評被害を抑えて漁業者らの理解を得ながら処理水の対処を続けるには、国内外の不信感を東電が払拭するとともに、東電の株主である国の説明責任も問われています。
(2021年4月14日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)