出生低位シナリオの現実化

 国立社会保障・人口問題研究所は、2023年4月公表の将来推計人口で、基本シナリオである出生中位・死亡中位のケースで、2024年の出生数はおよそ75万5,000人、出生率は1.27とし、いずれも前年から回復すると見込んでいました。2024年の実績は68万6,061人、1.15で、出生低位・死亡中位シナリオの水準に近くなっています。

 出生低位シナリオであれば、外国人を除く総人口は2070年に7,165万人、15~64歳の生産年齢人口は3,473万人と、4~5割縮小することになります。経済成長や財政も出生率が低位なら将来像が変わってきます。出生率が1.36まで回復しても実質成長率は平均0.2%にとどまり、所得水準を示す1人当たり実質GDPは先進国で最低水準に落ち込みます。このままならマイナス成長が続きかねません。出生低位水準のままであれば、基礎年金の給付水準は2065年度に4割弱下がることになります。

 社会保障は現役世代が十数人で1人の高齢者を支えるかつての御神輿型から騎馬戦型に移りました。人口減が加速すれば肩車型どころか、現役世代1人で複数を支える天秤棒型の将来像が現実味を増してきます。出生低位シナリオは、将来像の予測ではなく、projection(投影)と考えるべきであり、ワーストシナリオを現実として受け止めなければなりません。

(2025年6月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です