出生前診断シリーズ―Ⅺ

着床前診断とは 

妊娠中に胎児の状態を把握し、胎児の妊娠中、出生後の成育環境を準備するための検査として、出生前診断が従来から行われてきています。異常があった場合、出生前診断では結果的に人工妊娠中絶に至ることが多いとのことから、倫理的・法的・社会的見地から問題点が指摘されてきました。これを防ぐために新たに着床前の受精卵から診断を行う着床前遺伝子診断(preimplantation genetic diagnosis,PGD)の概念が確立されました。

 PGDは遺伝学的情報を診断することで、疾患の伝播を防ぐことを目的として考えられ、その結果として人工妊娠中絶を回避できることが有用であるとされています。体外受精とその関連技術を中心とした生殖補助技術の発展と普及が基本にあり、加えて遺伝子解析技術の発展によって単一細胞の遺伝子を診断することが可能となったことから、PGDは現実のものとなってきました。

 PGDの基本技術としては、排卵誘発から顕微授精を含む受精・胚培養に至る体外受精および初期胚からの胚生検、生検胚に対する遺伝子・染色体診断、そして胚移植に至る過程からなります。胚細胞から単一の遺伝子の異常を診断することになるため、技術的により高度の工夫や高い精度が要求されます。
これらの遺伝子疾患の保因者に対して行う本来のPGDに対し、初期胚に多く発生している染色体の数的異常に対するスクリーニング検査が行われるようになっています。その検査が簡便で容易であること、体外受精卵の染色体数的異常が多く、流産頻度が高いことなどから、欧米では急速に実施例数が増加した経緯があります。これを特に着床前遺伝子スクリーニング(preimplantation genetic screening,PGS)と呼んでいます。

(吉村 やすのり)

カテゴリー: what's new   パーマリンク

コメントは受け付けていません。