海外における着床前診断
海外のPGDに関する適応は各国の事情や状況によって異なっていますが、欧州生殖医学会(ESHRE)からPGDの適応についてのガイドラインが公表されています。わが国の適応とは大きく異なる点は、デザイナーベビーと呼称される臍帯血幹細胞移植のドナーを目的としたPGDも認められています。同胞に生じた骨髄系の悪性腫瘍に対する治療のために組織適合性のマッチする児をその両親が生み、臍帯血幹細胞を得ることを目的に行うものです。さらに、染色体の数的異常の発生を高頻度に起こすために流産を反復するカップルに対してスクリーニング検査としてのPGDや男女産み分けなども許可されています。
これまで海外においては、中絶を回避するため、受精卵を用いた染色体のスクリーニングが多く行われてきました。流産においては、染色体数的異常の割合が高いこと、高齢女性では染色体異常の頻度が高くなることから、流産を予防し、健常と考えられる検査結果の胚を移植するためのPGSが数多く実施されてきました。しかしながら、最近の研究成果によると、従来のFISH法で胚をスクリーニングしても生児獲得率は上昇せず、流産率が低下しないとの報告が相次いでいます。
FISH法では細胞固定の不安定性があり、シグナルの認識についても位置関係や発色程度に偏りがあり、単一細胞での診断確定は困難な場合があります。現在FISH法に代わる方法として、アレイCGH法による全染色体の数的異常の検出や構造異常を含めた網羅的解析が試みられるようになってきています。わが国においても、実施の是非論以前に、流産を防止するためのPGSの医学的有用性について検証されることになっています。
(吉村 やすのり)