出生前診断シリーズ―XV

出生前検査にあたって

 遺伝学的検査に対する説明は、クライエント本人のみならず、そのパートナーも同席して行うことが原則です。その際には平易な言葉を用い、時間が許すならば複数回説明する機会を持つことが理想的であり、結論を性急に求めないことが肝要です。検査を両親がともに希望しているかどうかを確認し、次に検査を希望する理由を聞くことになります。

以下に私の羊水検査を希望するクライエントの説明手順を示します。1. 生まれてくる子どもは誰しも、先天異常などの障害をもつ可能性があること 2. 母体の年齢と関係なく、先天異常は2.5~5%の割合で生まれてくること 3. 母体年齢の上昇とともに染色体異常の発生頻度が増加すること    4.生まれてくる染色体異常の子どものなかではダウン症候群の頻度が高いが、他の異常もあることを説明します。特に高齢妊娠の設定については、母体年齢が35歳以上で急激に染色体異常の発生頻度が高くなるのではなく、ダウン症候群の子を出生する確率と羊水検査において合併症 が 起 こ る 確 率 が 逆 転 す る 年 齢 が 35歳 で あ る こ と も 併 せ て 説 明 します。クライエントが最も心配しているダウン症候群については、疾患の概要を説明し、理解を求めます。ダウン症候群とは21番染色体が1本多く、生まれるのは2割前後であり、多くの場合は流産することを説明します。生命予後は合併症にもよりますが、生まれた子どもは平均50歳位まで元気に生活することができること、精神発達の遅れは中等度で個人差があり、早くからの働きかけが効果的であり、一芸に秀でる人が多くみられることなどを説明します。合併症として、先天性の心臓病、白血病、てんかん、消化器の奇形が認められることがありますが、合併症の数や重症度にも個人差が多いことを説明します。またダウン症候群で生まれた子どもがどのような生活をしているのかを知ってもらうために協会のホームページなどをみることを勧めています。羊水検査は全遺伝情報を調べることではなく、すべての遺伝性疾患がわかるものではないこともクライエントに理解してもらうことが大切です。染色体異常は、胎児異常のうちのごく一部にすぎないことも伝える必要があり、微小な染色体異常やモザイクは検出されない可能性や、疾患によっては両親の検査をしなければ判断できない場合があることなどを、クライエントに説明する必要があります。羊水検査の合併症は、子宮内感染、前期破水、出血、母体の腸管や血管の損傷があり、いずれも流・早産や子宮内胎児死亡に繋がる可能性(0.3%)があることを検査前に十分に説明しなければなりません。

(吉村 やすのり)

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