わが国の場合、出生率の増加は出生数の増加につながっていません。全国の出生率が高い上位10県は10年前と比べ、いずれも率が高まっているのに子供は計16万人減っています。出生率が最下位の東京都だけ子供が増えています。2019年の出生率は、沖縄の1.82や宮崎の1.73などが上位に並び、10位までの県はいずれも10年前より上昇しています。しかし、横ばいの沖縄を除き、子どもの減少率は7~14%と少子化は着実に進んでいます。10県の14歳以下の人口は計163万人で、10年で16万人も減っています。
出生率は、県単位で15~49歳の女性がどれだけ子どもを産んだかを割り出しています。子どもを産んでいない若い女性が県外に流出すると、分母が縮小して率は高まります。逆に東京のように、若い女性の流入が続くと出生率が低くなってしまいます。生まれてくる子どもの数は、出生率より性成熟期にある女性の増減数の影響が大きくなっています。2019年の転出入の差し引きで、39道府県で9万2千人の女性が減っています。その9割は、埼玉、千葉、神奈川の3県を含む首都圏への転出超過です。20代が8割を占めています。東京の女性は4万7千人の純増で、小規模な市の総人口に匹敵します。女性の転入超過数は男性の1.34倍です。女性の方が東京に定着する傾向があり、人口の東京一極集中は若い女性や子どもで顕著といえます。
少子化対策は、出生率に目を奪われてばかりいてはいけません。問題は子育て世代の女性が暮らしやすい環境をいかに整えるかです。女性登用が地方ほど進んでおらず、能力を発揮したいと思う女性ほど東京に進出します。今回のコロナ禍で地方に住みたいと考える若い世代が増えてくることが期待されます。若い女性を吸い寄せる東京の磁場が弱まる今は、地方の少子化対策の好機ととらえるべきです。今こそ、男女共働きで育児と仕事を両立しやすいと思える地域づくりが大切です。
(2020年7月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)