出自を知る権利に関する一考察 Ⅰ
非配偶者間人工授精AIDで生まれた子の思い
AIDはこれまで匿名性を堅持して実施されてきたため、親がAIDで生まれた子どもに対し告知することはほとんどありませんでした。しかし、親の病気や死、離婚などがきっかけで子どもが事実を知るようになる場合があります。
そのとき、子どもにとって今まで信じてきたものが突然崩れてしまう感覚、それは想像を絶するものがあります。何らかの家庭内の危機的な状況下でのアイデンティティの喪失は、子どもにとって二重の衝撃です。公開シンポジウムなどでAIDで生まれた子の立場からの講演を拝聴することがあります。彼らはAIDで生まれた人の自助グループ(DI Offspring Group;DOG)で活動している方々ですが、その訴えは心に迫るものがあります。彼らが自分自身の存在を否定することなく、通常の親子の信頼関係を保ってゆくためには、親を秘密にしておきたいという気持ちだけを優先することはできません。彼らがAIDで生まれた子どもであることを許容して生きていくためには、親の積極的告知が必要となります。彼らは出自を知る権利が保障されないのであれば、AIDは行うべきではないと考えています。告知が真の意味での親子関係の確立に繋がるのかもしれません。われわれ医療関係者にも、これまで出自を知る権利を無視した状況下でAIDを実施してきた責任があるかもしれません。
(吉村 やすのり)