分娩費用の保険化に憶う

 厚生労働省は、出産時の分娩費用を全国一律にして自己負担をゼロにする制度案を示しています。経済的負担の地域差をなくし、出産費用の透明性を高めとしています。新たに一律の価格を決めて公的保険で賄い、無償にする仕組みを検討しています。2026年の通常国会に関連法の改正案提出を目指しています。

 インフレや賃上げで出産費用は年々上昇し、2024年度は正常分娩で全国平均51万9,805円と10年で2割上がっています。地域差も大きく全国最高の東京都の平均が64万8,309円だったのに対し、最低の熊本県は40万4,411円でした。都内では100万円以上の分娩費用がかかる病院も散見されます。

 出産育児一時金は、1994年の制度創設時の30万円から35万、38万、42万、50万円と段階的に引き上げてきました。増額すると、それに応じて出産費用も上がる傾向があり、便乗値上げも指摘されてきました。特に2023年に50万円にした後の出産費用の上昇は大きくなっています。高額な地域は一時金では足りないのですが、費用が一時金を下回れば差額を妊産婦側が受け取れる現状は、公平性や透明性の点で問題が指摘されています。

 政府は、2023年に決めたこども未来戦略で、2026年度を目途に出産費用の保険適用の導入を含む支援強化を検討すると打ち出しています。お産ができる医療機関は減少しています。病院に限ると2023年は全国886施設で、1996年から半減しています。近隣の病院でお産ができなくなるといった妊婦の不安解消は、少子化対策の観点からも大切です。分娩費用の保険化を拙速に進めれば、周産期の医療提供体制が崩壊する可能性も出てきています。短時間で終了する分娩もあれば、リスクの高い妊婦の分娩もあり、一律の価格導入は難しいと思われます。リスクの高い妊婦を受け入れている高度の周産期センターの取り扱いも問題となります。子育て世代の経済的負担を抑えつつ、地域の医療提供体制を守る制度設計が必須です。

(2025年12月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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