日本企業は従来、従業員に本業への集中を求める傾向が強く、副業は原則として禁止されていました。人手不足が深刻化し働き方が多様化しており、厚生労働省は、2018年にモデル就業規則を改定し、副業を原則容認する方針に転じています。日本で副業への関心が高まる契機となっています。しかし、実際に副業をする人は限られています。パーソル総合研究所の調査によれば、社員の副業を容認する企業の比率は60%に達していますが、実際に副業をしている正社員は7%にとどまっています。
日立製作所とソニーグループは、2024年から相互に社員の副業を受け入れます。若手・中堅社員を相手先企業の先端部門に派遣します。AIや半導体などが対象となります。働き手が副業先での成果を持ち帰れば、企業も人材価値の向上や技術革新につなげられます。人材の多様性や企業の競争力を高める手法として、相互副業は新たな選択肢となると思われます。
人材交流を目的とする他社への出向と比べると、副業は本業を継続できる点が異なります。副業は働き手にとって挑戦のハードルが低く、企業にとっては代替人材を確保する負担を減らせます。また、働き手は企業が認めた受け入れ先で副業するため、副業先でのトラブルを避けられます。配置転換や出向と異なり、受け入れ先の企業が提示する仕事に応募する形を取るため、働き手は自分が希望する仕事に挑むことができます。
副業は、働き手が新たなキャリアの可能性に気付き、転職するきっかけともなります。政府は2023年にまとめた三位一体の労働市場改革の指針で、成長産業への労働移動とリスキリングの強化を打ち出し、その手段として副業を奨励しています。相互副業などを通じて、副業の受け皿を増やすことが求められています。
(2024年2月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)