都道府県とそれぞれにある大学が協力して医学部に地域枠を設け、卒業生に一定期間地方勤務を義務付ける取り組みが本格化して10年が経過しました。深刻な医師不足を解消する切り札として、導入した国公立の医学部は全体の約9割にまで広がりました。地域枠は1990年代後半から一部で導入されていましたが、急速に広がり始めたのは2006年度からです。背景には、2004年度に導入された新たな臨床研修制度があります。
新制度では卒業後、自らの希望で研修先を選べるようになりました。このため、先進的な医療機器を備え、経験も積める東京など大都市の病院を選ぶ傾向が強まりました。それ以前の卒業生は大学附属病院の医局に所属し研修するのが一般的でした。医局の教授が人事権を掌握することに批判はありましたが、医局員を関係の深い病院に派遣、へき地を含め配置を調整してきました。
地域的なハンディがある自治体にとって、地域枠は医師が地元に残るきっかけ作りになります。まだ全国的に地域枠を経て地元に勤務する医師は少ないのですが、今後は卒業生が急増し、地域医療で一定の役割を果たすと思われます。しかし、地方は専門医の資格を取得できる環境が保障されていないといった問題が残っています。2017年度には診療科ごとに学会が行う専門医の認定を第三者機関が担うことになり、より資格の取得が進むとみられます。その中でへき地では指導医がいなかったり、特定の臓器について症例の経験不足したりする懸念があります。
(2015年12月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)