近年、都市部の医療機関や美容外科で働く医師が増えています。拘束時間が長く、労働環境が厳しいとされる産婦人科や小児科では、医師の確保が難しくなっています。地域別では東京都に医師が集中しています。厚生労働省が人口10万人に対する医師数をベースに医師の労働時間などを調整した医師偏在指標は、東京都が353.9と突出しています。最下位の岩手県は182.5と2倍近い開きがあります。西日本は医師が多く、東日本は少ない傾向があるため西高東低と言われることもあります。
診療科による偏りも大きくなっています。医師数の伸びは、2022年度は2008年度に比べ1.1倍にとどまっていますが、主に美容外科で働く医師は3.2倍に増えています。ほとんどが保険適用外の美容外科は、料金を自由に設定できるため収益を上げやすくなっています。若手医師が多く働いており、臨床研修を終えた直後から美容クリニックで働くことは直美(ちょくび)とも呼ばれています。
厚生労働省は、医師偏在の解消に向けた財源として保険料を使う方針を固めています。早ければ2026年度から年100億円程度を用いて、地方で働く医師の給与を引き上げます。都市部や特定の診療科に集中している現状を改めるとしています。地方で働く医師を増やすために支援金を新たに設けます。人口と比べて十分な医師がおらず、特別な支援が必要な区域を、厚生労働省の意見を参考にしながらそれぞれの都道府県が決めます。この区域内にある医療機関を対象に支援金を支払います。現在対象区域で働く医師の数は全国の約10%に相当します。
地方では医療に支障が出ないように、医師が私生活を犠牲にして働くケースもあります。休日に代理で働く医師を探すのが難しく、勤務地をなかなか離れられません。地方で働く難点を減らして、地域間の医師数の偏りを無くすことを目指すとしています。並行して医療費の抑制に取り組みます。地方で働く医師の待遇改善に用いる資金が増えるため、他の支出を減らして保険料の負担が増えないようにします。
(2024年12月6日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)