医師の働き方改革を考える

来年4月に始まる医師の働き方改革では、病院などで働く勤務医の時間外・休日労働に上限が設けられます。原則として年960時間、月80時間相当に規制されます。過労死の可能性があるとされるラインで、守らなければ医療機関の管理者が刑事罰に問われる可能性もあります。
規制の対象となるのは、勤務医のうち上限を超えて働く3~4割ほどです。大学病院や3次救急病院の救急科、外科、産科などに集中しています。なり手が少なく、過剰労働に支えられてきた診療科の労働時間が、強制的に減らされることになります。地域医療への大きな影響が予想されます。
大学病院は、勤務医を地域の病院に派遣することで地域医療を支えてきましたが、派遣医師を引きあげる動きがあります。時間外労働の上限は、派遣先での分も合計した上で適用されるからです。その結果、地域の病院で人手が足りなくなり、夜間救急を中止したり、救急車を受け入れられなくなったりする可能性があります。外科では、外科医が1週間に実施できる手術件数が減り、がんでも数カ月待たされるケースが考えられます。
大学病院の産科は、時間外労働の上限を守りながら診療機能を維持するには、今まで以上に多くの産婦人科医が必要になります。しかし、医師の数は急に増えませんので、地域の基幹病院に医師を集約しなければいけません。以前から人手不足の大学病院は、これを機に派遣医師を引きあげようと考えています。その結果、出産の取り扱い中止に追い込まれる地域の病院が、多数出てくることが予想されます。要件を満たせば、2035年度までは上限を年1,860時間に拡大できます。拡大を申請する病院はそれほど多くはありません。そのような病院で働こうとする若い医師は少ないという現実に直面しています。
働き方改革と地域医療を両立するためには、患者1人に対して医師がチームで対応することです。チーム医療に対する患者の理解が必要となります。また外科医の手術以外の仕事をできるだけ他の人にシフトすれば、労働時間が短くなっても同じ手術数を保つことができます。実現するには、デジタル機器を導入し、医師が時間や場所に囚われず、患者を診たりカルテを参照したりできるよう医療DXを進めることなどが必要になります。
医師の働き方改革が進まないことを社会問題として捉えることが重要です。産科や外科、救急科など命に直接かかわる診療科を担う医師が足りていないことを認識し、担い手が増えるような改革を進めるように、行政や政治に対して国民が声を上げることも必要です。

(2023年9月6日 朝日新聞)
(吉村 やすのり)

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