現在総務省の労働力調査によれば、現在労働者の7人に1人にあたる約910万人が医療福祉分野に就業しています。給与水準として明確に上昇しているのは医師のみで、新型コロナウイルス感染症流行前の2019年と比較した賃金は11%上昇しています。一方、看護師・薬剤師・ケアマネージャーの賃金は、マイナス1%~プラス4%の変化にとどまっています。結局のところ診療のタスクが相対的に医師に集中し、医師の不足感が高い現状は大きく変わってはいません。
新型コロナ禍では、国から医療従事者に慰労金が交付されました。また2024年の報酬改定では、医療・介護の処遇改善として2.5%を目標とする賃金のベースアップが設定されました。しかし、実際にそれらを誰にどう配分するかは事業者ごとの裁量で決められます。事業者側は、公的報酬プラス改定がなければ物価高の中、医療・介護従事者らの賃金を改善しつつ国民の医療・介護を守ることはできないという考えです。
まずは現場で人材の有効活用と業務効率化を進めるのが大切です。人材不足への対策は全産業を通じた課題です。医療・介護分野だけがいつまでも職種ごとに可能な行為を固定化し、医療職・介護職間のタスクシフト・シェアにも後ろ向きで、デジタル技術も導入しないままではいられません。職種ごとの縦割りで硬直的な業務により、医師の地域・診療科の偏在の影響をさらに悪化させています。 病院においては統合や機能再編、診療所においてはグループ診療の形態をとることが必要となります。日本の病院の4分の1は50~99床の小規模病院であり、診療所も一人開業医が多く経営情報の開示に消極的です。さらに小規模な医療機関が多いために医療従事者が分散してしまい、医療従事者1人にかかる負担が重くなっています。一定程度の人材のプールがなければ、タスクシフト・シェアの相手となる人材にも欠き、業務の効率化が図れません。
(2024年11月5日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)