医療ジェットの苦境

 小児の重症患者を高度専門病院に搬送する医療ジェットが資金難にあえいでいます。NPO法人が試験運航で16人の小児を搬送し救命しましたが、寄付金頼みで苦境が続いています。小児の専門病院は都市部に集中し、地方では新設は難しく、命の格差をなくすため国の支援が必要となっています。

 医療ジェットは小型ジェット機の内部を改装し、人工心肺装置などを使う重症患者をベッドに乗せたまま搭乗させられます。小児の主治医からの相談を受けて航空搬送が必要と判断すると、ジェット機が患者が入院する最寄りの空港まで飛び、専門病院の医師らが現地で合流します。医療機器を装着した小児患者とともに医療ジェット機に搭乗して専門病院まで付き添います。

 日本小児循環器学会などは、航空機搬送が少なくとも年150件は必要と推計しています。空路の患者搬送はドクターヘリが都道府県単位で導入されています。しかし、飛行半径は50㎞ほどで夜間や悪天候では運航できません。大きく、重い人工心肺装置などを装着した患者の搬送は困難です。医療ジェットは飛行半径が2千㎞ほどで全国に搬送できます。夜間や悪天候でも運航できる可能性が高く、機内も広く揺れや騒音も少ないため、患者に高度な集中治療をしながら搬送できます。

 小児に高度の集中治療を行う小児集中治療室は都市部に集中しています。地方では専門のスタッフが少なく、維持費もかさむため導入が広がっていません。救急搬送のケースは少なく、医療ジェットを使って専門病院に搬送し、治療する体制の方が費用面で効率的です。

(2025年11月15日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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