患者が死亡した医療事故の原因究明や再発防止を目的とした「医療事故調査制度」の運用指針作りが粉糾しています。事故発生後に医療機関が行う調査結果の遺族らへの報告を巡り、医療関係者と遺族らの間で意見が対立していることが原因です。この同制度は10月にスタ-トします。一昨年5月にまとまった同制度の骨格となる基本的なあり方では、制度の目的を原因究明と再発防止とし、医療機関による調査報告書は遺族に十分説明の上、開示しなければならないことになっています。
ところが、医師や遺族ら24人の委員による具体的な運用指針作りが始まると、調査報告書の記載内容や取扱いを巡り、遺族側と医療サイドとの間で意見の隔たりが表面化しています。報告書の内容や遺族らへの伝え方次第では、現場医療の委縮につながるとし、患者側に再発防止対策を知らせないとする医療関係者は少なくありません。しかしながら、医療安全のための再発防止策がこの制度の大きな目的ですので、報告書には記載すべきと考えます。安全・安心な医療を国民に提供するためには、再発防止を検討することが大切であり、患者と病院との間の信頼関係が重要となります。報告書についても可能なかぎり開示する必要があるように思えます。
(2015年2月23日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)