新型コロナウイルスの感染拡大により、医療機関の受診を控える動きが広がっています。厚生労働省の発表によれば、2020年度の概算医療費は42兆2,000億円と、前年度に比べて1兆4,000億円(3.2%)減少しました。減少額、幅ともに1954年以来、過去最大です。
2020年度に減少が目立ったのは未就学児の受診です。1人あたり医療費は、前年度に比べて17%減っています。診療科別の受診動向をみても、小児科の診療所の医療費が22.2%減と、子どもの受診控えが顕著です。コロナ禍の受診控えが指摘される一方、医療費の助成が大きい小児科などはかねて過剰受診も指摘されてきています。必要性が高くない受診もあり、医療費は予算制約があり、自己負担を課すことが望ましいかもしれません。
75歳以上の医療費は16兆6,000億円と、2019年度に比べて4,000億円減少しています。高齢者もコロナ禍で腰痛など慢性の疾病は受診を控える動きがあり、整形外科も医療費がマイナスになりました。慢性疾患も受診が不要不急かどうかの判断は難しいのですが、予防への取り組みで継続的に医療費を削減する取り組みの強化が必要となります。
新型コロナへの対応にあたっては、病床確保への補助金など財政支出の追加・拡大が続いていますが、これらは医療費には含まれません。従来の医療費の概念にとらわれない、医療の支出額全体の把握も課題となります。日本の病床は、急性期を中心に全体として過剰にもかかわらず、コロナ禍においてはコロナ患者が入院できない事態に陥っています。こうした状況を打破するためにも、地域医療構想の下で適正化していくのが望まれます。いずれにしても、コロナはわが国の抱える様々な医療課題を考え直す良い機会です。
(2021年9月1日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)