卵子凍結助成制度に憶う

東京都は、独自に実施している将来の妊娠・出産に備えた卵子凍結への助成規模を10倍の2,000人に増やします。2023年度に助成枠200人で開始したところ、2,500人が利用意向を示しています。規模を大幅に拡充し、女性のキャリアと妊娠・出産の両立を後押しします。
卵子は加齢とともに老化して妊娠しにくくなります。若いときの卵子を冷凍保管しておけば、妊娠したいタイミングで融解して体外受精に使えます。高齢出産のリスクは伴うものの、妊娠率の低下は避けられます。
しかし、不妊治療の一環として実施する卵子凍結と異なり、妊娠と直接結びつかない卵子凍結は全額自己負担の自由診療となっています。凍結する卵子の数にもよりますが、一般的に50万円程度かかります。都は、2023年10月に自治体として初めて卵子凍結への助成を始めました。高額な費用が卵子凍結をためらう一因になっているためです。採卵と5年間保管する費用として計30万円を上限に補助します。対象は都内在住の18~39歳の女性です。
都が助成事業に先立って実施した調査では、卵子凍結した女性の5割弱が30代後半でした。妊娠可能性を高めるには30代前半までの採卵が望ましいのですが、ギャップがあるのが実情です。また海外でのデータでは、凍結した卵子の使用割合は1割未満に過ぎません。働く女性の選択肢を広げたことは評価できるのですが、自治体レベルで税金を使用し、利用率が1割以下の医療技術への助成には疑問の余地が残ります。こうした助成の導入については、企業が従業員のために考慮すべき制度と思われます。東京都の公的助成に関しては、助成制度を受けたクライエントの転帰についての十分な検証が必要となります。

(2024年2月17日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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