夏の参院選に向けた与野党の公約は、給付や減税といった分配政策への傾斜が鮮明になってきています。本来分配政策とは、税制や社会保障制度の仕組みで富裕層から所得や富を移転させて、貧困を生む過度な経済格差の是正を促す措置を言います。経済政策の一つで、給付や減税が具体策に挙げられます。しかし分配の原資となる財源については、赤字国債頼みの構図が続くと将来世代の負担が増えるリスクをはらんでいます。
日本では、安倍晋三政権だった2020年に新型コロナウイルス禍を受けて全国民に一律10万円を給付しました。岸田文雄前政権では、2024年に政府による定額減税を実施し、国への所得税と地方自治体への住民税を1人あたり計4万円差し引きました。石破茂政権では、物価高を受けて住民税非課税世帯に対象を絞った給付を実施しています。
日本は過去の分配政策の多くを赤字国債の発行に頼ってきました。財務省によれば、日本の債務残高はGDPの2倍を超えており、主要先進国の中で最も高い水準にあります。金利の上昇局面では、国債の利払い費が増加するため、将来の財政負担がさらに膨らむ要因になり得ます。
所得制限なしの一律給付は、新型コロナウイルス下と同様、多くが貯蓄に回り政策効果を疑う声もあります。減税や給付によって政府債務が膨らめば、長期金利が急上昇するリスクが増します。赤字国債の発行に頼れば将来世代に負担を転嫁することにもなります。一時的な消費税の減税ではなく、将来を見越した抜本的な税制改革が必要な時期です。財政規律の目配りのない選挙対策のための分配政策は、今だけ、自分だけのサービス合戦としか思えません。
(2025年6月11日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)