京都府立医大の研究チームは、角膜の表面にある角膜上皮がけがなどで作れなくなった角膜上皮幹細胞疲弊症の患者に、患者本人の口内の粘膜細胞を培養して作ったシートを角膜の代わりに移植する治療法を開発しました。視力回復が期待できます。
この手法では、他人から角膜の提供を受ける必要がなく、自らの組織を移植するため免疫による拒絶反応も起こりません。角膜上皮幹細胞疲弊症では、角膜上皮のもとになる細胞がダメージを受けることで角膜上皮の細胞が作られなくなり、重度の場合、黒目部分が保護されずに瞼が癒着するなどし、視力が著しく低下します。これまで有効な治療法は見つかっていません。口内の粘膜細胞は、採取が容易で増殖しやすく、角膜も粘膜細胞の一種です。患者の口内から採取した粘膜細胞を、健康な妊婦から提供を受けた羊膜にのせ、10~14日間培養し、直径約2㎝のシートにします。
羊膜と一緒に移植することで目に定着しやすくなります。羊膜は、当初半透明ですが、次第に透明になります。様々な細胞に成長できるiPS細胞から角膜のシートを作製する研究も国内で進められていますが、より安価に移植が実施できる見通しです。角膜治療の可能性が広がります。
(2022年3月7日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)