日本経済新聞によれば、合成麻薬であるフェンタニルを米国に不正輸出する中国組織が日本に拠点をつくっていた疑いが判明しています。米国ではフェンタニルの乱用で年間数万人が死亡し、大きな社会問題になっています。トランプ米政権は、中国とメキシコ、カナダに責任があるとし、2025年2月以降にそれぞれ原則20~25%のフェンタニル関税を課しています。貿易戦争など世界的な摩擦を生んでいる問題が、日本にも波及する可能性が出てきました。
フェンタニルは、オピオイドと総称する麻薬性鎮痛剤の一種で、化学物質を合成してつくります。脳と脊髄に作用し、神経伝達物質の放出を抑えて痛みを和らげたり、多幸感を引き起こしたりします。本来はFDAも認可する医薬品で、米国では1960年代から末期がんのケアなどに使っています。日本でも消化管の内視鏡検査時の麻酔薬としてもよく使用されています。
米国で問題になっているのは違法につくられ、規制外のルートで流通する不正フェンタニルです。SNSなどを介して手軽に安く買える合成麻薬として流行し、中毒患者が急増しました。年間数万人が過剰摂取で死亡しており、若年層の間では交通事故や銃を上回る犠牲者を生み続けています。
注射や錠剤、皮膚に貼るパッチ型のフェンタニルが普及しています。植物原料を使うコカインやヘロインと異なり、化学の知識と器具があれば比較的簡単に合成できます。効果もヘロインの約50倍と極めて強く、わずか2㎎の摂取で死に至る恐れがあります。
(2025年6月26日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)