OECD27カ国の少子化対策の給付を含む家族向け支出のGDP比と合計特殊出生率との間には、正の相関がみられます。家族向け支出を増やせば、出生率が高まるとされています。2017年の日本の家族向け支出はGDP比で1.59%で、OECD27カ国平均の2.25%と比べて低率です。これを増やすには、限りある財源を家族向け支出にいかに振り向けるかという再配分問題を乗り越えなければなりません。
希望出生率1.8を実現するには、単純計算で家族向け支出が3.3%程度必要となり、現在の規模の約2倍の財源が求められます。たとえ高齢者世代との財源の分配問題が解決した場合でも、現在の人口規模を維持する2.07という出生率の水準を実現するまで、財政支出を投入することは現実的ではありません。
少子化の背景には若い世代が安心して家族形成をできる環境が整っていない多くの課題があります。将来への漠然とした不安、非正規雇用の増加などに伴う不安定な生活、両立支援に消極的な保守的な考え方や組織体質、妊婦や幼子を迷惑と感じさせる社会的風潮などが積み重なり、子どもを持つことをためらわせる社会状況をもたらしたと言えます。
小手先の少子化対策では限界が見えており、社会全体の意識や行動が変わっていかなければ、日本は少子化の罠から抜け出せません。多様性の文化を認め合う社会改革の決意とこれを継続する強い意志が求められます。
(2021年7月27日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)