AI時代の教育は、公平なAI環境に配慮しながら、AI外注のスキルとともに、学生自身の思考力も育てるという難しいかじ取りを迫られています。哲学教育は思考の教育です。大学の哲学の授業に、授業特化型AIであるアカデミックダイアログが活用されています。このシステムは、教員がシラバスのデータをアップロードするだけで、各回の授業に特化したAI環境を自動的に構築します。教員が各回の授業資料をアップロードすると、学生はその資料に基づいてAIとテキストチャットができます。
学生が使えるモードは2つあります。内容理解モードでは、授業資料について自由に質問ができます。AIは該当箇所を引用しながら回答するため、学生は元の資料に立ち返って学びを深められます。理解度テストモードでは、AIが資料の内容に基づいて学生に問いかけ、対話を通じて学生の理解度を確認します。
システムの利点は3つあります。一つは教員のAIに関する知識がほぼ不要なことです。全ての教員はシラバスや授業資料を持っているため、授業に特化したAI環境を誰もが構築し、学生に提供できます。次に、公平な仕方で学生にAI利用を促進できます。受講生は皆、同じAI環境で学習を進めることになります。最後に最も重要なのはログが残ることです。AIとどのように対話し、授業や資料をどう理解したのかという学びの過程が、そのままデータとして記録されます。教員は学生の思考の軌跡を評価できます。
ソクラテスは立派なことを知ったつもりでいる人々に問いを投げかけ、対話を通じてその無知を自覚させ、真理を探究するプロセスを重視しました。思考とは、他者からの問いに応答しながら行う協働的な営みだからです。アカデミックダイアログは、古典的な対話的知の営みを現代の文脈に合わせて再構築したものです。革新的なテクノロジーであるAIが、学生の真の思考を養い、試す環境になるかもしれません。

(2026年3月2日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)





