国立大学の授業料は、文部科学省が定める標準額から最大20%まで大学が増額できます。現在の標準額は53万5,800円です。日本が、モノの値段が下がり続けるデフレに陥った時期とも重なり、約20年間据え置かれてきました。
近年の物価高騰はその状況を変えています。2005年の消費者物価指数を100とした場合、2023年は110.9に上昇しています。私立大学の2023年の平均授業料は、2005年から16%増となっています。しかし、2019年度以降、授業料を引き上げた国立大学は千葉大学など首都圏の7校のみです。大半の国立大学が、財政難に苦しんでいます。
国立教育政策研究所の高校3年生の保護者を対象に行った調査によれば、世帯収入が高いほど国立大学を第1志望とする割合が高いという結果が出ています。世帯年収1,050万円以上では44.3%が国立大学を志望している一方、400万円未満は18.5%にとどまり、私立大学志望が34.3%と多くなっています。国立大学の低額な授業料の恩恵を受ける学生は、大学進学者の約2割に過ぎません。
授業料のあり方は国によって異なります。欧州の大学は国公立大学が大半で、多額の税金で賄われており、授業料は無償か少額です。米国の有名私立大学は、学生が高額の授業料を負担する一方、低所得層への奨学金も手厚くしています。人気の高い国立大学に入るためには、幼い頃からの学習塾通いなど教育投資が必要となります。低所得層の子どもにとっては、国立大学は狭き門になっています。

(2025年4月29日 読売新聞)
(吉村 やすのり)