日本経済新聞の調査によれば、新型コロナウイルスの重症者の受け入れ先として、高度な医療技術を持つ国立大学病院が十分に活用されていません。重症者病床のうちコロナ患者向けの割合は、国立大病院では17%で、民間を含む全国の割合を4ポイント下回っています。6割の病院が全国水準に達していません。
厚生労働省によれば、全国の重症者病床数は1万7千床で、21%の3,620床がコロナ患者用に確保されています。高度医療を担う国立大学病院は、民間よりもICUなどの重症者病床を多く抱えています。にもかかわらず、コロナ重症者の病床確保率が低いのは、数多くの疾病や手術に幅広く対応すべきだと考えているからです。病床確保が難しい理由としては、回答した全病院がコロナ以外の医療への影響を挙げ、人材が確保できないとの回答も8割に達しています。国立大学では、コロナ重症者向けの病床が空いているケースも多くなっています。
欧米では、地域医療の中核として、大学病院が100~200床単位の集中治療室(ICU)を持ち、コロナ患者を集中的に受け入れる体制が整っています。ドイツでは、病院間で重症病床や医療スタッフを融通する調整機能が働いています。コロナ重症者を治療するスキルを持つ人材を大病院に集約させ、コロナ以外の患者を別の病院で引き受けるよう調整しています。
国立大学は2004年に自立的な経営を可能にする独立行政法人に準じる組織となりました。そのため、国立大学病院が、国の指揮命令が及びにくい統治構造であることも、コロナ重症者の受け入れ拡充が進まない一因となっています。また、数が多い中等・軽症者は、国立大学病院以外が引き受けるといったすみ分けも必要です。
(2021年2月9日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)