地方創生10年への憶い

 安倍政権が地方創生を掲げて10年が経過しました。人口減や少子化はむしろ加速し、成長は鈍っています。2014年の合計特殊出生率は1.42でした。若い世代の希望がかなう1.8を国の長期ビジョンは打ち出しましたが、2023年は1.2まで下がっています。地方への人の流れをつくるといって目指した東京圏の転出入の均衡も実現していません。2014年に10.9万人だった転入超過は、2023年に11.5万人に拡大しています。コロナ禍で縮小したのは一過的でした。

 この間、政府が配るお金に自治体が群がる構図が定着してしまいました。コロナ危機も経て進んだのは、地方の自立ではなく国への依存でした。これまで国が地方に配った交付金はおよそ5千件で計約1.3兆円にも達しています。財政制度等審議会は、2024年度予算編成建議で先駆的・優良事例は示されていないと指摘しています。

 マクロで見ても日本の底上げになってつながっていません。2023年度まで10年間の実質成長率は年平均0.5%どまりで、2013年度までの10年間の0.7%から落ち込み、目標の1.5~2%との差は一段と開いています。地方への交付金は単なるバラマキに終わっています。規制を緩和して都市部の大規模開発を進める傍らで、移住促進というのは無理があります。

 制度の集権的な側面も問題です。政府は地方創生の総合戦略や人口ビジョンを都道府県や市町村ごとに策定するよう求めています。その内容に基づいて交付金を出すため、地方が国になびく構図になってしまいます。地域のことは地域で決めるという考え方で、権限や財源を自治体に移す分権の理念は、今影を潜めています。複数の県がくっつく道州制、大都市が県から独立する特別自治市といった強い自治体をつくる構想は、地方創生の号令の下で埋もれるかたちになってしまいました。  堅調な企業業績を背景に増えているかに見える地方税収も、国際比較すれば停滞が際立っています。OECDのデータによれば、2014年以降の伸びは1.2倍ほどに過ぎません。他の主要先進国はドイツが1.6倍、米国が1.5倍で水をあけられています。多くの自治体はふるさと納税のような仕組みを通じて、乏しいパイを奪い合う歪な競争にのめり込んでいます。

(2024年11月12日 日本経済新聞)
(吉村 やすのり)

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