国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、温暖化の影響や被害を軽くする適応策について最新の報告書を公表しています。人の活動によって生じた温暖化による影響で、すでに広い範囲で損失や被害を引き起こしていると指摘しています。治水などの対策を取ればリスクを減らせますが、このままでは対応が難しくなる適応の限界を迎えると警告しています。
現在、気温は産業革命前より約1.1度上っております。すでに熱波や豪雨などの極端気象が増加しています。半数の生物種が高緯度地域や標高の高い地域に移動しています。絶滅した種がいるなど、回復不能のリスクにさらされています。食料や水への影響も深刻で、世界の約半分が厳しい渇水を経験しています。サプライチェーンの混乱など、経済や社会への損害のリスクもあります。影響は途上国や低所得者など弱い立場の人に顕著で、33億~36億人が被害を受けやすい地域に暮らしています。
各国の現在の政策のままでは、今世紀末には約2.7度も上昇するとされています。上昇幅が1.5度を超えると、極地や氷床・氷河、山岳、沿岸などを中心に生態系が回復不能なほどに失われます。世界各地で穀物が一斉に不作になったり、島国や雪解け水に頼る地域では、淡水が減ったりするなど、人の命に直結する食料や水の確保にも大きな影響が出るとしています。
国連環境計画によれば、適応策への資金として、途上国だけで2030年までに年間最大3千億ドル、2050年までに5千億ドルが必要になります。現在の投資の5~10倍にあたります。しかし、気候変動の影響が悪化する中、適応策への投資を増やすことが生存にとって不可欠です。
(2022年3月1日 朝日新聞、日本経済新聞)
(吉村 やすのり)