地球温暖化による波の変化

世界平均の海面水位は、今世紀末には最大1.1m上昇します。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、2019年に特別報告書で温暖化に伴うリスクの最新予測を示しました。しかし、温暖化による沿岸部の脅威は海面上昇だけではありません。海が熱を吸収して海面温度が上がると、大気の対流が促進されて風速が変わり、風によって発生する波のエネルギーも変化します。温暖化によって波が強まれば、砂浜の形や生態系を変化させ、人類に長期的な影響を及ぼす可能性があります。
1980年代以降は、太平洋やカリブ海、東インドネシアなどの赤道付近を中心に、温暖化の影響で波のエネルギーが増大しています。太平洋で10%、インド洋では15%程度もエネルギーが上昇しています。赤道付近は、北半球と南半球の両方の温暖化の影響を受けるので、波のエネルギーも強くなりやすいとされています。また、南オーストラリアや西オーストラリア、南アフリカなどでも温暖化による影響が見られ、北半球よりも南半球に顕著に表れる傾向があることが分かっています。
今のペースで温暖化が進み、今世紀末に世界の平均気温が産業革命前より約4度上昇した場合、世界の海岸線の5割以上が波の変化で影響を受けると予測されています。波のエネルギーが変化することによって、砂浜の浸食が起こり、砂がさらわれて岩がむき出しになった海岸が増える可能性があります。港などに砂が堆積すれば、取り除く工事が必要になります。また、波が高くなれば、高波などに備えて沿岸の防災インフラ整備も必要になります。
気温上昇がこのままのペースで進めば、海面上昇の影響で日本沿岸の約8割の砂浜が消失すると予測されています。砂浜がなくなると、波のエネルギーを弱める効果が小さくなり、護岸施設が損傷したりする危険性が高まります。防災面だけでなく、観光などへの影響も大きく、海水浴などレクリエーションの価値の損失を招きます。

(2021年7月27日 毎日新聞)
(吉村 やすのり)

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